インターネット上の図書館「青空文庫」の作品を朗読する「青空朗読」は、プロのアナウンサーによる社会貢献活動としてスタートし、最近は、朗読を学ぶ一般の方々からも作品を提供していただいています。2016年5月に一般社団法人となりました。
2026年9月30日 · 42:19
弟子 十一~十六 著者:中島 敦 読み手:齊藤 雅美 時間:42分19秒 十一 許から葉へと出る途すがら、子路が独り孔子の一行に遅れて畑中の路を歩いて行くと、を荷うた一人の老人に会った。子路が気軽に会釈して、夫子を見ざりしや、と問う。老人は立止って、「夫子夫子と言ったとて、どれが一体汝のいう夫子やら俺に分る訳がないではないか」と突堅貪に答え、子路の人態をじ…
2026年9月29日 · 39:30
弟子 六~十 著者:中島 敦 読み手:齊藤 雅美 時間:39分30秒 六 晋の魏楡の地で石がものを言ったという。民の怨嗟の声が石を仮りて発したのであろうと、ある賢者が解した。既に衰微した周室は更に二つに分れて争っている。十に余る大国はそれぞれ相結び相闘って干戈の止む時が無い。斉侯の一人は臣下の妻に通じて夜ごとその邸に忍んで来る中についにその夫に弑せられてし…
2026年9月28日 · 32:52
弟子 一~五 著者:中島 敦 読み手:齊藤 雅美 時間:32分52秒 一 魯の卞の游侠の徒、仲由、字は子路という者が、近頃賢者の噂も高い学匠・陬人孔丘を辱しめてくれようものと思い立った。似而非賢者何程のことやあらんと、蓬頭突鬢・垂冠・短後の衣という服装で、左手に雄、右手に牡豚を引提げ、勢猛に、孔丘が家を指して出掛ける。雞を揺り豚を奮い、嗷しい脣吻の音をもっ…
2026年9月27日 · 8:37
瀬戸内の小魚たち 著者:壺井 栄 読み手:桑村 恵子 時間:8分37秒 この一月の末に、足かけ四年ぶりに郷里の小豆島へ帰った。大して目的はなく、もしかしたら持病になりつつあるぜんそくが癒るかもしれないと聞かされての、急な思いつきだったのだが、帰ってみると顔を合せるほどの人がみんな聞く。 「どんなご用で。どうしに? いつまで?」…
2026年9月26日 · 5:01
手紙 一 著者:宮沢 賢治 読み手:西沢 裕子 時間:5分1秒 むかし、あるところに一疋の竜がすんでいました。 力が非常に強く、かたちも大層恐ろしく、それにはげしい毒をもっていましたので、あらゆるいきものがこの竜に遭えば、弱いものは目に見ただけで気を失って倒れ、強いものでもその毒気にあたってまもなく死んでしまうほどでした。この竜はあるとき、よいこころを起し…
2026年9月25日 · 26:14
雪靈續記 著者:泉 鏡花 読み手:ヨシオカ ミエコ 時間:26分14秒 一 機會がおのづから來ました。 今度の旅は、一體はじめは、仲仙道線で故郷へ着いて、其處で、一事を濟したあとを、姫路行の汽車で東京へ歸らうとしたのでありました。――此列車は、米原で一體分身して、分れて東西へ馳ります。…
2026年9月24日 · 15:55
てがみ 著者:アントン・チェーホフ/鈴木 三重吉 訳 読み手:イトー ゲンヤ 時間:15分55秒 ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコフもそのお家にゐられなくなり…
2026年9月23日 · 8:18
世界記録と私 著者:人見 絹枝 読み手:米澤 裕美 時間:8分18秒 年の暮れまでにはまだ一月あるが、神宮の大会が終ると私はなんだか自分の生活の一年が終ったような気がする。 あわただしい一年ではあった。それだけになんだか今年はいつもの二倍の仕事をしたような気持もする。…
2026年9月22日 · 4:12
月謝の袋を失くしたあひるさん 著者:村山 籌子 読み手:西川 美映子 時間:4分12秒 あひるさんは泣きながら学校から帰つて来て、お母さんに申しました。 「お母さん、先生から頂いた月謝の袋を落したの。先生に叱られるといや」 お母さんはおつしやいました。 「あひるさんや、カバンの中をしらべて見て、なかつたら、明日、先生によくお話しをなさい」…
2026年9月21日 · 25:33
結婚 著者:中 勘助 読み手:小林 きく江 時間:25分33秒 姉の死と同時に私のところの家庭はもう久しく予期された行きづまりに到著した。残されたのは頭が悪くてもののいえない七十をこした兄と六十に手のとどく私、どうにもならない。病中は私が主婦の代役をし、お見舞にきて下さる親戚やお知合いの婦人の好意に頼って凌いできたもののそれは余儀ない窮余の窮策で、いつまで…
2026年9月20日 · 3:50
ゲタニ バケル 著者:新美 南吉 読み手:都築 洋子 時間:3分50秒 ムラガ アリマシタ。ムラノ ソトヲ ヲガハガ ナガレテ ヰマシタ。カハノ キシニハ ハンノキガ シゲツテ ヰマシタ。 ハンノキノ シタデ オカアサンノ タヌキガ コドモノ タヌキニ バケル コトヲ ヲシヘテ ヰマシタ。 「オテラノ コゾウサンニ バケル トキハ コロモヲ ツケテ…
2026年9月19日 · 13:02
永日小品 猫の墓 著者:夏目 漱石 読み手:みきさん 時間:13分2秒 早稲田へ移ってから、猫がだんだん瘠せて来た。いっこうに小供と遊ぶ気色がない。日が当ると縁側に寝ている。前足を揃えた上に、四角な顎を載せて、じっと庭の植込を眺めたまま、いつまでも動く様子が見えない。小供がいくらその傍で騒いでも、知らぬ顔をしている。小供の方でも、初めから相手にしなくなった…
2026年9月18日 · 8:25
永日小品 過去の匂い 著者:夏目 漱石 読み手:滝沢 久恵 時間:8分25秒 自分がこの下宿を出る二週間ほど前に、K君は蘇格蘭から帰って来た。その時自分は主婦によってK君に紹介された。二人の日本人が倫敦の山の手の、とある小さな家に偶然落ち合って、しかも、まだ互に名乗り換した事がないので、身分も、素性も、経歴も分らない外国婦人の力を藉りて、どうか何分と頭を下…
2026年9月17日 · 8:02
永日小品 下宿 著者:夏目 漱石 読み手:榎本 美智子 時間:8分2秒 下宿 始めて下宿をしたのは北の高台である。赤煉瓦の小じんまりした二階建が気に入ったので、割合に高い一週二磅の宿料を払って、裏の部屋を一間借り受けた。その時表を専領しているK氏は目下蘇格蘭巡遊中で暫くは帰らないのだと主婦の説明があった。…
2026年9月16日 · 13:06
永日小品 火鉢 著者:夏目 漱石 読み手:みきさん 時間:13分6秒 眼が覚めたら、昨夜抱いて寝た懐炉が腹の上で冷たくなっていた。硝子戸越に、廂の外を眺めると、重い空が幅三尺ほど鉛のように見えた。胃の痛みはだいぶ除れたらしい。思い切って、床の上に起き上がると、予想よりも寒い。窓の下には昨日の雪がそのままである。…
2026年9月15日 · 8:18
永日小品 柿 著者:夏目 漱石 読み手:加藤 純子 時間:8分18秒 喜いちゃんと云う子がいる。滑らかな皮膚と、鮮かな眸を持っているが、頬の色は発育の好い世間の子供のように冴々していない。ちょっと見ると一面に黄色い 心持ちがする。御母さんがあまり可愛がり過ぎて表へ遊びに出さないせいだと、出入りの女髪結が評した事がある。御母さんは束髪の流行る今の世に、昔風の…
2026年9月14日 · 6:58
永日小品 蛇 著者:夏目 漱石 読み手:貝瀬 晶子 時間:6分58秒 木戸を開けて表へ出ると、大きな馬の足迹の中に雨がいっぱい湛っていた。土を踏むと泥の音が蹠裏へ飛びついて来る。踵を上げるのが痛いくらいに思われた。手桶を右の手に提げているので、足の抜き差に都合が悪い。際どく踏み応える時には、腰から上で調子を取るために、手に持ったものを放り出したくなる。やが…
2026年9月13日 · 6:54
永日小品 元日 著者:夏目 漱石 読み手:黒沢 ちゑ子 時間:6分54秒 雑煮を食って、書斎に引き取ると、しばらくして三四人来た。いずれも若い男である。そのうちの一人がフロックを着ている。着なれないせいか、メルトンに対して妙に遠慮する傾きがある。あとのものは皆和服で、かつ不断着のままだからとんと正月らしくない。この連中がフロックを眺めて、やあ――やあと一ツ…
2026年9月12日 · 6:07
化粧 著者:神西 清 読み手:中村 昭代 時間:6分7秒 これは昔ばなしである。―― 二人はおさない頃から仲よしだつた。家は大和の国の片ほとり、貧しい部落に、今ならばさしづめ葭簀ばりの屋台で、かすとり焼酎でも商なふところか、日ごとに行商をして暮らしを立てる、隣どうしであつた。…
2026年9月11日 · 33:12
外科室 著者:泉 鏡花 読み手:伊藤 靖 時間:33分12秒 上 実は好奇心のゆえに、しかれども予は予が画師たるを利器として、ともかくも口実を設けつつ、予と兄弟もただならざる医学士高峰をしいて、某の日東京府下の一病院において、渠が刀を下すべき、貴船伯爵夫人の手術をば予をして見せしむることを余儀なくしたり。…
2026年9月10日 · 5:31
競馬 著者:吉川 英治 読み手:真喜屋 智美 時間:5分31秒 競馬場がふえ、競馬ファンもふえてきた。応接間の座談として、競馬が語られる時代がきた。その中で、時々、知人のあいだにも、“楽しみを楽しまざる人”がまま多い。――競馬を苦しむ方の人である。…
2026年9月9日 · 1:36
経験派 著者:織田 作之助 読み手:宮松 大輔 時間:1分36秒 彼は小説家だった。下手な小説家だった。その証拠に実感を尊重しすぎた。 彼は掏摸の小説を構想した。が、どうも不安なので、掏摸の顔を見たさに、町へ出た。 ところが、一人も掏摸らしい男に出会わなかった。すごすご帰りの電車に乗って、ふと気がつくと、財布がない。掏られていたのだ。彼は悲しむまえに喜んだ…
2026年9月8日 · 14:30
路上 著者:梶井 基次郎 読み手:新道 改 時間:14分30秒 自分がその道を見つけたのは卯の花の咲く時分であった。 Eの停留所からでも帰ることができる。しかもM停留所からの距離とさして違わないという発見は大層自分を喜ばせた。変化を喜ぶ心と、も一つは友人の許へ行くのにMからだと大変大廻りになる電車が、Eからだと比較にならないほど近かったからだった。ある日の…
2026年9月7日 · 2:29:52
雪の女王 ―七つのお話からできている物語― 著者:ハンス・クリスチャン・アンデルセン/矢崎 源九郎 訳 読み手:山城 美奈 時間:2時間29分52秒 さいしょのお話 鏡と、鏡のかけらのこと さあ、いいですか、お話をはじめますよ。このお話をおしまいまで聞けば、わたしたちは、いまよりも、もっといろいろなことを知ることになります。それは、こういうわけなのですよ。…
2026年9月6日 · 1:31
老境 著者:河井 酔茗 読み手:加納 恵美子 時間:1分31秒 吾老いぬれど 仙家に入らず 茶烟軽く 紅塵の裡に住む 柴門を守るは 吾家の月 竹窓に吹くは 隣家の風 人来れば 迎へて会ふ 人去れば 吾座にもどる 眠り足りて 夢なく 起きて 倦むことなし 昼には 昼に書くことあり 夜には 夜に語ることあり 世にあづけたる わが寿は 時来らば…
2026年9月5日 · 6:04
雪に埋れた話 著者:土田 耕平 読み手:池戸 美香 時間:6分4秒 お秋さんは、山へ柴刈に行つたかへりに、雪に降りこめられました。こん/\と止めどなく降つてくる雪は、膝を埋め、腰を埋め、胸を埋める深さにまで積つてきました。お秋さんは、大きな柴の束を背負つたまゝ、立ちすくんでしまひました。 「もう助かりやうはない。」…
2026年9月4日 · 19:39
檸檬 著者:梶井 基次郎 読み手:藤田 利和 時間:19分39秒 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦躁と言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖カタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金な…
2026年9月3日 · 3:04
友人 著者:上村 松園 読み手:水野 礼子 時間:3分4秒 私にはこれという友人がなく、つきあいらしい交際もしたことがない。 昔から独りぼっちといった感じである。 女の人で当時絵を進んでやるという人もほとんどと申してよいくらい少なく、たまたまあったところで自分よりも歳下の女性と話し合う気もおこらず、また男の方だと、画学校や絵画の集会などではとにかくとして、…
2026年9月2日 · 5:02
烈婦 著者:高田 保 読み手:宮澤 賢吉 時間:5分2秒 「世界情勢吟」と題して川柳一句をお取次ぎする。 国境を知らぬ草の実こぼれ合い なんと立派なものではないか。ピリッとしたものが十七字の中に結晶している。ところでこれがなんと、八十三歳のお婆さんのお作なのだ、驚いていただきたい。…
2026年9月1日 · 8:12
雪だるま 著者:小川 未明 読み手:中田 真由美 時間:8分12秒 いいお天気でありました。もはや、野にも山にも、雪が一面に真っ白くつもってかがやいています。ちょうど、その日は学校が休みでありましたから、次郎は、家の外に出て、となりの勇吉といっしょになって、遊んでいました。 「大きな、雪だるまを一つつくろうね。」…
2026年8月31日 · 13:49
列車 著者:太宰 治 読み手:凧野 頓太 時間:13分14秒 一九二五年に梅鉢工場という所でこしらえられたC五一型のその機関車は、同じ工場で同じころ製作された三等客車三輛と、食堂車、二等客車、二等寝台車、各々一輛ずつと、ほかに郵便やら荷物やらの貨車三輛と、都合九つの箱に、ざっと二百名からの旅客と十万を越える通信とそれにまつわる幾多の胸痛む物語とを載せ、雨の…
2026年8月30日 · 0:52
雪 著者:三好 達治 読み手:詩真 時間:52秒 十一月の夜をこめて 雪はふる 雪はふる 黄色なランプの灯の洩れる 私の窗にたづね寄る 雪の子供ら 小さな手が玻璃戸を敲く 玻璃戸を敲く 敲く さうしてそこに 息絶える 私は聽く 彼らの歌の 靜謐 靜謐 靜謐 【青空朗読】とは…
2026年8月29日 · 7:18
レコード夜話 著者:宮城 道雄 読み手:谷口 尚久 時間:7分18秒 メニューヒンの演奏会を日比谷の公会堂へ聴きに行って、あとで楽屋へ挨拶に行くと、握手をしながら how do you do と言われた。その声が高い若々しい調子に聞こえた。帰ろうとすると、もう一度握手されたので私は嬉しかった。…
2026年8月28日 · 12:08
歪んだ窓 著者:山川 方夫 読み手:堀口 直子 時間:12分8秒 朝からの雨が窓を濡らしている。アパートの小暗い部屋の中で、レーン・コートを出し手ばやく外出の仕度にかかる姉を、彼女は隅っこから目を光らせて見ていた。 「いいわね? じゃ、ちゃんとおとなしくお留守番をしててね。すぐ帰ってくるから」…
2026年8月27日 · 24:12
令嬢アユ 著者:太宰 治 読み手:坂井 あきこ 時間:24分12秒 佐野君は、私の友人である。私のほうが佐野君より十一も年上なのであるが、それでも友人である。佐野君は、いま、東京の或る大学の文科に籍を置いているのであるが、あまり出来ないようである。いまに落第するかも知れない。少し勉強したらどうか、と私は言いにくい忠告をした事もあったが、その時、佐野君は腕組…
2026年8月26日 · 9:38
雪女 著者:田中 貢太郎 読み手:齋藤 こまり 時間:9分38秒 多摩川縁になった調布の在に、巳之吉という若い木樵がいた。その巳之吉は、毎日木樵頭の茂作に伴れられて、多摩川の渡船を渡り、二里ばかり離れた森へ仕事に通っていた。…
2026年8月25日 · 6:11
無表情の表情 著者:上村 松園 読み手:田部 真理 時間:6分11秒 私は前かたから謡曲を何よりの楽しみにして居りまして、唯今では家内中一統で稽古して居ります。松篁夫婦、それから孫も仕舞を習っているという工合で、一週に一度ずつは先生に来て頂いているという、まあ熱心さです。…
2026年8月24日 · 2:55
二つの鞄 著者:夢野 久作 読み手:かえるさん 時間:2分55秒 小さな鞄と大きな鞄と二つ店に並んでおりました。大きな鞄はいつも小さな鞄を馬鹿にして、 「お前なんぞはおれの口の中に入ってしまう」 と冷かしました。 二つの鞄は同じ時に同じ人に買われて、同じ家に行きました。すると小さな鞄の中にはお金や何か貴いものが詰められて、人間に大切に抱えられて行きます。大…
2026年8月23日 · 18:11
村の学校(実話) 著者:アルフォンス・ドーデー/鈴木 三重吉 訳 読み手:後藤 司 時間:18分11秒 今からちようど六十年前に、フランスはドイツとの戦争にまけて、二十億円のばい償金を負はされ、アルザス・ローレイヌ州を奪はれました。その土地はこの前の世界戦争で、やつと又とりかへしました。このお話は、アルザス・ローレイヌがドイツ領になつて、村々の小学校も先生…
2026年8月22日 · 3:57
二つの頭 著者:原 民喜 読み手:池戸 美香 時間:3分57秒 日曜日のことでした、雄二の兄と兄の友達が鶴小屋の前で、鶴をスケッチしていました、雄二はそれを側で眺めながら、ひとりでこんなことを考えました……何んだい、僕だって描けますよ、鶴だって、犬だって、山の絵だって、駅だって、街の絵だって、みんな描けます、僕の眼にちゃんと見えるものなら、それをそのとおり…
2026年8月21日 · 4:28
紫式部の美的情緒と浄土教 著者:岡本 かの子 読み手:成 文佳 時間:4分28秒 紫式部が晩年阿弥陀仏の信仰に依り安心立命を得て愈々修道に心掛けた様子は式部が、日記の終りに近い条で自ら告白して居るから疑いはない。しかし、私は源氏物語や家集の和歌を読んで、それ等に含まれている式部の美的情緒の一般にも浄土教的思想の影響が可なり在るように思えるからそれに就いて述…
2026年8月20日 · 16:31
普請中 著者:森 鴎外 読み手:新道 改 時間:16分31秒 渡辺参事官は歌舞伎座の前で電車を降りた。 雨あがりの道の、ところどころに残っている水たまりを避けて、木挽町の河岸を、逓信省の方へ行きながら、たしかこの辺の曲がり角に看板のあるのを見たはずだがと思いながら行く。…
2026年8月19日 · 8:45
無題抄 著者:上村 松園 読み手:濱田 薫 時間:8分45秒 私には、どうも絵以外のことですと、どうせ余技にすぎないからという気がして、打ち込んで熱中する気になれない性分があるようです。三味線にしても長唄にしても、最初は謡曲にしても、皆そういう風にずぼらに考えていました。…
2026年8月18日 · 23:17
不思議な国の話 著者:室生 犀星 読み手:寺田 理恵子 時間:23分17秒 そのころ私は不思議なこころもちで、毎朝ぼんやりその山を眺めていたのです。それは私の市街から五里ばかり隔った医王山という山です。春は、いつの間にか紫ぐんだ優しい色でつつまれ、斑ら牛のように、残雪をところどころに染め、そしていつまでも静かに聳えているのです。その山の前に、戸室というのが…
2026年8月17日 · 15:00
蟲の聲 著者:永井 荷風 読み手:横山 宜夫 時間:15分 東京の町に生れて、そして幾十年といふ長い月日をこゝに送つた………。 今日まで日々の生活について、何のめづらしさをも懷しさをも感じさせなかつた物の音や物の色が、月日の過ぎゆくうちにいつともなく一ツ一ツ消去つて、遂に二度とふたゝび見ることも聞くこともできないと云ふことが、はつきり意識せられる時が來る。…
2026年8月16日 · 13:43
梟の大旅行 著者:林 芙美子 読み手:富田 美苗 時間:13分43秒 むかしあるところに、梟が住んでいました。ふかいふかい森のなかで、晝も、ほの暗いところなのです。あんまり暗い森のなかなので陽氣なお天氣の好きな、小鳥や、りすも、みんな、森のそとがわに出て住んでいました。 梟はたった一人ぼっちで淋しいので、晝間も歌をうたって暮していました。 ぼろ着て奉公!…
2026年8月15日 · 12:45
虫の生命 著者:夢野 久作 読み手:真喜屋 智美 時間:12分45秒 炭焼きの勘太郎は妻も子も無い独身者で、毎日毎日奥山で炭焼竈の前に立って煙の立つのを眺めては、淋しいなあと思っておりました。 今年も勘太郎は炭焼竈に楢の木や樫の木を一パイ詰めて、火を点けるばかりにして正月を迎えましたが、丁度二日の朝の初夢に不思議な夢を見ました。…
2026年8月14日 · 53:49
富嶽百景 著者:太宰 治 読み手:駒形 ゆう 時間:53分49秒 富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらゐ、けれども、陸軍の実測図によつて東西及南北に断面図を作つてみると、東西縦断は頂角、百二十四度となり、南北は百十七度である。広重、文晁に限らず、たいていの絵の富士は、鋭角である。いただきが、細く、高く、華奢である。北斎にいたつては、そ…
2026年8月13日 · 3:07
麦の ほ 著者:グリム兄弟/矢崎 源九郎 訳 読み手:堀口 直子 時間:3分7秒 むかし むかし、神さまが、まだ じぶんで、この世の中を、あるきまわっていらっしゃったころの おはなしです。 そのころは、こくもつが、今よりも ずっとずっと よく みのりました。麦のほも、五十や六十 ばかりではありません。四百も五百も…
2026年8月12日 · 17:57
フェリシテ 著者:モーリス・ルヴェル/田中 早苗 訳 読み手:中村 昭代 時間:17分57秒 彼女はフェリシテという名前だった。貧しい女で、美人でもなく、若さももう失われていた。 夕方、方々の工場の退け時になると、彼女は街へ出て、堅気女らしい風でそぞろ歩きをした。ときどき微かに歩調をゆるめたかと思うと、また元のように歩いて行った。…
2026年8月11日 · 21:07
猫吉親方 またの名 長ぐつをはいた猫 著者:ペロー/楠山 正雄 訳 読み手:濱田 薫 時間:21分7秒 一 むかし、あるところに、三人むすこをもった、粉ひき男がありました。もともと、びんぼうでしたから、死んだあとで、こどもたちに分けてやる財産といっては、粉ひき臼をまわす風車と、ろばと、それから、猫一ぴきだけしかありませんでした。さていよいよ財産を分けること…
2026年8月10日 · 7:48
つばめの話 著者:小川 未明 読み手:菅野 秀之 時間:7分48秒 上 夏の初めになると、南の方の国から、つばめが北の方の国に飛んできました。そして、電線や、屋根の上や、高いところ に止まって、なきました。広い野原の中を汽車がゆくときに、つばめは、電線の上に止まって、じっとながめていたこともあります。また、青い海辺に連なる電…
2026年8月9日 · 4:04
寝ぼけ 著者:夢野 久作 読み手:ちくわさん 時間:4分4秒 太郎さんはしじゅう寝ぼけてしくじるので、口惜しくてたまりません。明日は運動会だから、決して寝ぼけずにちゃんと自分で支度をして、みんなを驚かしてやろうとかたく決心をして寝ました。 あくる朝大へん早く起きたものがありますから、太郎さんは飛び起きますと、お母さんが坐って、…
2026年8月8日 · 41:13
鼓くらべ 著者:山本 周五郎 読み手:石橋 玲 時間:41分13秒 一 庭さきに暖い小春日の光が溢れていた。おおかたは枯れた籬の菊のなかにもう小さくしか咲けなくなった花が一輪だけ、茶色に縮れた枝葉のあいだから、あざやかに白い葩をつつましく覗かせていた。 お留伊は小鼓を打っていた。…
2026年8月7日 · 32:49
葱 著者:芥川 龍之介 読み手:水野 久美子 時間:32分49秒 おれは締切日を明日に控えた今夜、一気呵成にこの小説を書こうと思う。いや、書こうと思うのではない。書かなければならなくなってしまったのである。では何を書くかと云うと、――それは次の本文を読んで頂くよりほかに仕方はない。 ――――――――――――――――――――――――…
2026年8月6日 · 7:16
月夜のあとさき 著者:津村 信夫 読み手:横山 宜夫 時間:7分16秒 「戸隠では、蕈と岩魚に手打蕎麦」私がこのように手帖に書きつけたのは、善光寺の町で知人からきかされたのによる。 岩魚は戸隠山中でもそう容易には口に這入らない。岩魚釣を専門にしている、さる農家の老人をひとり知っているが、その他に所謂素人で、ひそかに釣に出るような人もある。…
2026年8月5日 · 1:07
猫の広告文 著者:夏目 漱石 読み手:手塚 未紗 時間:1分7秒 吾輩は猫である。名前はまだない。主人は教師である。迷亭は美学者、寒月は理学者、いづれも当代の変人、太平の逸民である。吾輩は幸にして此諸先生の知遇を辱ふするを得てこゝに其平生を読者に紹介するの光栄を有するのである。……吾輩は又猫相応の敬意を以て金田令夫人の鼻の高さを読者に報道し得るを一生の面目…
2026年8月4日 · 35:07
告げ人 著者:伊藤 左千夫 読み手:齊藤 雅美 時間:35分7秒 雨が落ちたり日影がもれたり、降るとも降らぬとも定めのつかぬ、晩秋の空もようである。いつのまにか風は、ばったりなげて、人も気づかぬさまに、小雨は足のろく降りだした。…
2026年8月3日 · 3:42
ヌスビトト コヒツヂ 著者:新美 南吉 読み手:あとみ たえこ 時間:3分42秒 ヤワラカイ クサガ ミドリノ モウフノヤウニ ハヱテ ヰル ヒロツパニ タクサンノ ヒツジガ メイメイト ナキナガラ アソンデ ヰマシタ。 スルト ソコヘ ヒトリノ ヌスビトガ トホリカカリマシタ。オナカガ スイテ ヰル ヌスビトノ メニ、フト マルマルシタ コヒツジガ…
2026年8月2日 · 14:44
月と海豹 著者:小川 未明 読み手:西沢 裕子 時間:14分44秒 北方の海は銀色に凍っていました。長い冬の間、太陽はめったにそこへは顔を見せなかったのです。なぜなら、太陽は、陰気なところは、好かなかったからでありました。そして、海は、ちょうど死んだ魚の眼のようにどんよりと曇って、毎日雪が降っていました。…
2026年8月1日 · 7:18
沼地 著者:芥川 龍之介 読み手:矢野 淳子 時間:7分18秒 ある雨の降る日の午後であった。私はある絵画展覧会場の一室で、小さな油絵を一枚発見した。発見――と云うと大袈裟だが、実際そう云っても差支えないほど、この画だけは思い切って彩光の悪い片隅に、それも恐しく貧弱な縁へはいって、忘れられたように懸かっていたのである。画は確か、「沼地」とか云うので、画家は…
2026年7月31日 · 15:37
ツェねずみ 著者:宮沢 賢治 読み手:室 由美子 時間:15分37秒 ある古い家の、まっくらな天井裏に、「ツェ」という名まえのねずみがすんでいました。 ある日ツェねずみは、きょろきょろ四方を見まわしながら、床下街道を歩いていますと、向こうからいたちが、何かいいものをたくさんもって、風のように走って参りました。そしてツェねずみを見て、ちょっとたちどまって早口…
2026年7月30日 · 1:44
ヌタプカムシペ山脈の畔り 著者:今野 大力 読み手:シュエ・ガオ 時間:1分44秒 色づく木々の丘の上の林へ 今日一日私は出かけた めずらしい晴天である 葡萄の葉と楡と、楢と栓とそれらみんな色づいて来た 最早すべて葉を落したものもある つたをたぐって丘に登る時 私は愉快である 登って見下せば又愉快である みごもった稲田を広い平野の端から端へ…
2026年7月29日 · 0:43
月が出る 著者:小川 未明 読み手:幡山 睦実 時間:43秒 だれが山でらっぱ吹く、 青い空から月が出る。 だれが野で太鼓打つ、 広い畑から月が出る。 だれが海で笛を吹く、 波の中から月がでる。 だれが町で歌うたう、 月がまんまるく照らしている。 【青空朗読】とは…
2026年7月28日 · 30:32
西班牙犬の家(夢見心地になることの好きな人々の為めの短篇) 著者:佐藤 春夫 読み手:水野 久美子 時間:30分32秒 フラテ(犬の名)は急に駆け出して、蹄鍛冶屋の横に折れる岐路のところで、私を待っている。この犬は非常に賢い犬で、私の年来の友達であるが、私の妻などは勿論大多数の人間などよりよほど賢い、と私は信じている。で、いつでも散歩に出る時には、きっとフ…
2026年7月27日 · 2:39
くまの こ 著者:新美 南吉 読み手:篠原 みのり 時間:2分39秒 かりうどが、ゆきの つもった やまへ、りょうに いきました。うさぎを 一ぴき みつけたので、きの あいだや こみちの うえを、おっかけまわって、やっとの ことで うちとめました。うさぎを ふくろに いれて、そこの きの したで ひとやすみ してから、うちの ほうへ…
2026年7月26日 · 3:50
砂をかむ 著者:坂口 安吾 読み手:佐藤 優 時間:3分50秒 五十ちかい年になってはじめて子ができるというのは戸惑うものである。できるべくしてできたというのと感じがちがって、ありうべからざることが起ったような気持の方が強いものだ。大そうてれくさい。お子さんは近ごろ、なぞと人に云われると、それだけでてれたりしてしまう・・・ 【青空朗読】とは…
2026年7月25日 · 15:28
熊手と提灯 著者:正岡 子規 読み手:齋藤 こまり 時間:15分28秒 本郷の金助町に何がしを訪うての帰り例の如く車をゆるゆると歩ませて切通の坂の上に出た。それは夜の九時頃で、初冬の月が冴え渡って居るから病人には寒く感ぜられる。坂を下りながら向うを見ると遠くの屋根の上に真赤な塊が忽ち現れたのでちょっと驚いた。箒星が三つ四つ一処に出たかと思うような形で怪しげ…
2026年7月24日 · 30:44
雀 著者:太宰 治 読み手:齊藤 雅美 時間:30分44秒 この津軽へ来たのは、八月。それから、ひとつきほど経って、私は津軽のこの金木町から津軽鉄道で一時間ちかくかかって行き着ける五所川原という町に、酒と煙草を買いに出かけた。キンシを三十本ばかりと、清酒を一升、やっと見つけて、私はまた金木行の軽便鉄道に乗った。 「や、修治。」と私の幼名を呼ぶ者がある。…
2026年7月23日 · 19:36
クねずみ 著者:宮沢 賢治 読み手:室 由美子 時間:19分36秒 クという名前のねずみがありました。たいへん高慢でそれにそねみ深くって、自分をねずみの仲間の一番の学者と思っていました。ほかのねずみが何か生意気なことを言うとエヘンエヘンと言うのが癖でした。 クねずみのうちへ、ある日、友だちのタねずみがやって来ました。 さてタねずみはクねずみに言いました。…
2026年7月22日 · 20:03
すずの兵隊さん 著者:ハンス・クリスチャン・アンデルセン/矢崎 源九郎 訳 読み手:つかさ 時間:20分3秒 あるところに、二十五人のすずの兵隊さんがいました。この兵隊さんたちは、みんな兄弟でした。なぜって、みんなは、一本の古いすずのさじをとかして作られていましたから。…
2026年7月21日 · 4:07
果物の天国 著者:中谷 宇吉郎 読み手:手塚 未紗 時間:4分7秒 この夏、アメリカの友人から妙なことを頼まれた。それは岡山の白桃と二十世紀とを食べておいてくれ、という依頼なのである。この男は、前に日本へ一度来たことがあるが、アメリカへ帰ってからも、どうしても忘れられないのは、白桃と二十世紀との味であるという。ところが、どうしてもあれは、アメリカまで送って…
2026年7月20日 · 3:44
随想 著者:上村 松園 読み手:植田 恵子 時間:3分44秒 時代の移り変わりは妙なものである。そのころは新しく奇異の思いにも感じられなかったことが、後にふり返ると滑稽にも思われる。 私は明治二十年、十三歳の頃京都の画学校に入ったが、その時分の学校は今の京都ホテルの処にあって、鈴木松年先生が北宗画の教授をされていた。半季ほどたってこの学校に改革が起こって松…
2026年7月19日 · 14:26
果物の木の在所 著者:津村 信夫 読み手:黒田 留美子 時間:14分26秒 信州の子供達や大人が首をながくして待つてゐた春は、永い間待つただけの甲斐があつて、これは又なんと美しい時でせう。 信州では、梅、桃、桜、杏、李といふやうな、春の花がいつときに咲き出すと言はれてゐます。勿論いつときとは言つても、多少の早いおそいはありませうが、まるで匂ひこぼれるやうな…
2026年7月18日 · 5:30
水仙の幻想 著者:薄田 泣菫 読み手:能島 昭子 時間:5分30秒 すべての草木が冬枯れはてた後園の片隅に、水仙が五つ六つ花をつけてゐる。 そのあるものは、肥り肉の球根がむつちりとした白い肌もあらはに、寒々と乾いた土の上に寝転んだまま、牙彫りの彫物のやうな円みと厚ぽつたさとをもつて、曲りなりに高々と花茎と葉とを持ち上げてゐる。…
2026年7月17日 · 6:57
草と虫とそして 著者:種田 山頭火 読み手:宮澤 賢吉 時間:6分57秒 いつからともなく、どこからともなく、秋が来た。ことしは秋も早足で来たらしい。 昼はつくつくぼうし、夜はがちゃがちゃがうるさいほど鳴き立てていたが、それらもいつか遠ざかって、このごろはこおろぎの世界である。こおろぎの歌に松虫が調子をあわせる。百舌鳥の声、五位鷺の声、或る日は万歳万歳のさ…
2026年7月16日 · 42:34
水車のある教會 著者:オウ・ヘンリ/三宅 幾三郎 訳 読み手:矢野 淳子 時間:42分34秒 レイクランヅはハイカラな避暑地の目録には入つてゐない。クリンチ川の小さな支流に臨むカンバランド山脈の低い支脈の上に在る。もと/\レイクランヅといふのは、寂しい狹軌鐵道沿線の、二十數戸の靜かな村の名である。まるで、鐵道が松林の中で道に迷つて、怖く淋しくなつて、その村…
2026年7月15日 · 22:41
グースベリーの熟れる頃 著者:宮本 百合子 読み手:中村 昭代 時間:22分41秒 小村をかこんだ山々の高い峯は夕日のさす毎に絵で見る様な美くしい色になりすぐその下の池は白い藻の花が夏のはじめから秋の来るまで咲きつづける東北には珍らしいほどかるい、色の美くしい景色の小さい村に仙二は住んで居た。…
2026年7月14日 · 21:16
牛女 著者:小川 未明 読み手:山城 美奈 時間:21分16秒 ある村に、脊の高い、大きな女がありました。あまり大きいので、くびを垂れて歩きました。その女は、おしでありました。性質は、いたってやさしく、涙もろくて、よく、一人の子供をかわいがりました。…
2026年7月13日 · 1:14
りんごの車 著者:新美 南吉 読み手:鈴木 佳子 時間:1分14秒 りんごが三かご のつてる車、 ころころいつた。 子供が押した。 (りんごが一かご あちらで売れた。) りんごが二かご 木箱の車、 ころころいつた。 子供が押した。 (りんごが一かご こちらで売れた。) りんごが一かご のこつた車、 ころころいつた。 子供が押した。 (りんごが一かご…
2026年7月12日 · 2:29
うさぎさん と おほかみさん 著者:村山 籌子 読み手:鈴木 星南 時間:2分29秒 うさぎさんが散歩してゐました。もうなつになりかけでしたから、きれいな花が咲いてゐました。そしていゝ匂(にほ)ひがしてゐました。 一人で歩くのは、うさぎさんには、初めてです。なぜといつて、うさぎさんは小学校の二年生でしたから。一人だつたので、とてもこわかつたのでした。うさぎ…
2026年7月11日 · 34:40
良夜 著者:饗庭 篁村 読み手:ヨシオカ ミエコ 時間:34分40秒 予は越後三条の生れなり。父は農と商を兼ねたり。伯父は春庵とて医師なり。余は父よりは伯父に愛せられて、幼きより手習学問のこと、皆な伯父の世話なりし。自ら言うは異な事なれど、予は物覚えよく、一を聞て二三は知るほどなりしゆえ、伯父はなお身を入れてこの子こそ穂垂という家の苗字を世に知らせ、またそ…
2026年7月10日 · 3:02
ウグヒスブエヲ フケバ 著者:新美 南吉 読み手:都築 洋子 時間:3分2秒 ムラノ コドモタチガ ウグヒスブエヲ フキマシタ。 ミンナデ イツシヨニ ニギヤカニ フキマシタ。 「ケキヨケキヨケキヨ、ヨ、 ケキヨケキヨ、ヨ」 ミンナハ アタタカク ナツテ クルト ハヲリヲ ヌイデ フキマシタ。 スルト モリヤ ヤブノ ナカニ ヰタ ウグヒスタチハ ソレヲ…
2026年7月9日 · 9:47
流言蜚語 著者:寺田 寅彦 読み手:宮澤 賢吉 時間:9分47秒 長い管の中へ、水素と酸素とを適当な割合に混合したものを入れておく、そうしてその管の一端に近いところで、小さな電気の火花を瓦斯の中で飛ばせる、するとその火花のところで始まった燃焼が、次へ次へと伝播して行く、伝播の速度が急激に増加し、遂にいわゆる爆発の波となって、驚くべき速度で進行して行く。これ…
2026年7月8日 · 4:34
うぐいす 著者:原 民喜 読み手:池戸 美香 時間:4分34秒 梅の花が咲きはじめました。学校の門のところにある梅も、公園の池のほとりにある梅も、静かに花をひらきました。雄二の家の庭の白梅も咲きました。花に陽 があたると、白い花はパッとうれしそうにかがやきます。日蔭の枝にある花は静かに青空をながめています。梅の花はみんなじっと何かを待っているようでし…
2026年7月7日 · 39:28
竜 著者:芥川 龍之介 読み手:水野 久美子 時間:39分28秒 一 宇治の大納言隆国「やれ、やれ、昼寝の夢が覚めて見れば、今日はまた一段と暑いようじゃ。あの松ヶ枝の藤の花さえ、ゆさりとさせるほどの風も吹かぬ。いつもは涼しゅう聞える泉の音も、どうやら油蝉の声にまぎれて、反って暑苦しゅうなってしもうた。どれ、また童部たちに煽いででも貰おうか。…
2026年7月6日 · 7:38
浮世絵画家の肉筆 ―花は霞を透してひとしおの風情があるもの― 著者:上村 松園 読み手:坂井 あきこ 時間:7分38秒 浮世絵画家の肉筆というものは、錦絵とはちがった別の味わいがあるものですが、こんど蒐集陳列されたものは、屏風、掛物、巻、画帖など種々な形のものがあって、しかも何しろ二百点ばかりもあったろうと思いますから、こういう展覧会としても、なかなか見ご…
2026年7月5日 · 21:19
律子と貞子 著者:太宰 治 読み手:齋藤 こまり 時間:21分19秒 大学生、三浦憲治君は、ことしの十二月に大学を卒業し、卒業と同時に故郷へ帰り、徴兵検査を受けた。極度の近視眼のため、丙種でした、恥ずかしい気がします、と私の家へ遊びに来て報告した。 「田舎の中学校の先生をします。結婚するかも知れません。」 「もう、きまっているのか。」…
2026年7月4日 · 11:00
魚河岸 著者:芥川 龍之介 読み手:左 璃寛 時間:11分 去年の春の夜、――と云ってもまだ風の寒い、月の冴えた夜の九時ごろ、保吉は三人の友だちと、魚河岸の往来を歩いていた。三人の友だちとは、俳人の露柴、洋画家の風中、蒔画師の如丹、――三人とも本名は明さないが、その道では知られた腕っ扱きである。殊に露柴は年かさでもあり、新傾向の俳人としては、夙に名を馳せた…
2026年7月3日 · 17:44
りこうもののエルゼ 著者:グリム/矢崎 源九郎 訳 読み手:こがわ めいすい 時間:17分44秒 あるところに、ひとりの男がおりました。男には、ひとりのむすめがありました。このむすめは〈りこうもののエルゼ〉という名まえでした。 さて、このむすめがすっかり大きくなりましたので、おとうさんはおかあさんにいいました。 「もうむすめをよめにやろうじゃないか。」…
2026年7月2日 · 1:12:36
ヴィヨンの妻 著者:太宰 治 読み手:二宮 正博 時間:1時間12分36秒 一 あわただしく、玄関をあける音が聞えて、私はその音で、眼をさましましたが、それは泥酔の夫の、深夜の帰宅にきまっているのでございますから、そのまま黙って寝ていました。…
2026年7月1日 · 23:42
利休と遠州 著者:薄田 泣菫 読み手:入江 安希子 時間:23分42秒 一 むかし、堺衆の一人に某といふ数寄者がありました。その頃の流行にかぶれて、大枚の金子を払つて出入りの道具屋から、雲山といふ肩衝の茶入を手に入れました。太閤様御秘蔵の北野肩衝も、徳川家御自慢の初花肩衝も、よもやこれに見勝るやうなことはあるまいと思ふにつけて、某はその頃の名高い茶博士から…
2026年6月30日 · 2:53
ミチコサン 著者:新美 南吉 読み手:根津 恵美子 時間:2分53秒 ミチコサンガ、コトリヤノ マヘマデ クルト、シラナイ オバサンガ、ウバグルマノ ナカノ ニモツヲ ナホシテ ヰマシタ。アカチヤンガ ノツテ ヰテ、カキマハシタノデシタ。 アカチヤンハ、ブウブウ イヒナガラ、カアチヤンノ ジヤマシテ ヰマシタ。 ミチコサンハ、オバサンノ ソバニ ヨツテ、…
2026年6月29日 · 4:10
ひつじさんとあひるさん 著者:村山 籌子 読み手:寺尾 麻希 時間:4分10秒 あひるさんのうちの きんじよに、ひつじのやうふくやさんがありました。あひるさんは、がくかうからかへると、まいにち、ひつじさんのおみせへいって、ひつじさんが、ミシンでやうふくをぬふのを、みてゐました。…
2026年6月28日 · 9:14
水汲み 著者:徳冨 蘆花 読み手:横山 宜夫 時間:9分14秒 玉川に遠いのが第一の失望であつた。井の水が悪いのが差当つての苦痛であつた。 井は勝手口から唯六歩、ぼろ/\に腐つた麦藁屋根が通路と井を覆ふて居る。上窄りになつた桶の井筒、鉄の車は少し欠けてよく綱がはずれ、釣瓶は一方しか無いので、釣瓶縄の一端を屋根の柱に結はへてある。汲み上げた水が恐ろしく泥臭い…
2026年6月27日 · 12:28
びっこのお馬 著者:小川 未明 読み手:中田 真由美 時間:12分28秒 二郎は、ある日、外に立っていますと、びっこの馬が、重い荷を背中につけて、引かれていくのでありました。 二郎は、その馬を見て、かわいそうに思いました。どんなに不自由だろう。そう思うと、達者な馬は、威勢よく、はやく歩いていくのに、びっこの馬はそれに負けまいとして、汗を流していっしょうけん…
2026年6月26日 · 5:10
水草 著者:久生 十蘭 読み手:金勝 陽子 時間:5分10秒 朝の十時ごろ、俳友の国手石亭が葱とビールをさげてやってきた。 「へんな顔をしていますね。どうしました」 「田阪で池の水を落とすのが耳について眠れない。もう三晩になる」 「あれにはわたしもやられました。池を乾して畑にするんだそうです」 「それはいいが、そのビールはなんだね」…
2026年6月25日 · 8:50
尾生の信 著者:芥川 龍之介 読み手:土屋 由美子 時間:8分50秒 尾生は橋の下に佇んで、さっきから女の来るのを待っている。 見上げると、高い石の橋欄には、蔦蘿が半ば這いかかって、時々その間を通りすぎる往来の人の白衣の裾が、鮮かな入日に照らされながら、悠々と風に吹かれて行く。が、女は未だに来ない。…
2026年6月24日 · 19:12
水菓子屋の要吉 著者:木内 高音 読み手:まあき、マナミン、ジョン酒巻 時間:19分12秒 一 要吉は、東京の山の手にある、ある盛り場の水菓子屋の小僧さんです。要吉は、半年ばかり前にいなかからでてきたのです。 要吉の仕事の第一は、毎朝、まっさきに起きて、表の重たい雨戸をくりあけると、年上の番頭さんを手伝って、店さきへもちだしたえんだいの上に、いろんなくだも…
2026年6月23日 · 26:11
眉山 著者:太宰 治 読み手:アン荻野 時間:26分11秒 これは、れいの飲食店閉鎖の命令が、未だ発せられない前のお話である。 新宿辺も、こんどの戦火で、ずいぶん焼けたけれども、それこそ、ごたぶんにもれず最も早く復興したのは、飲み食いをする家であった。帝都座の裏の若松屋という、バラックではないが急ごしらえの二階建の家も、その一つであった。…