青空朗読 · 2026年9月14日 · 6:58
永日小品 蛇
著者:夏目 漱石 読み手:貝瀬 晶子 時間:6分58秒
木戸を開けて表へ出ると、大きな馬の足迹の中に雨がいっぱい湛っていた。土を踏むと泥の音が蹠裏へ飛びついて来る。踵を上げるのが痛いくらいに思われた。手桶を右の手に提げているので、足の抜き差に都合が悪い。際どく踏み応える時には、腰から上で調子を取るために、手に持ったものを放り出したくなる。やがて手桶の尻をどっさと泥の底に据えてしまった。危く倒れるところを手桶の柄に乗し懸って向うを見ると、叔父さんは一間ばかり前にいた。蓑を着た肩の後から、三角に張った網の底がぶら下がっている。この時被った笠が少し動いた。笠のなかからひどい路だと云ったように聞えた・・・
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