Podliポッドキャストプレーヤー Webplayer

珈琲 , Jazz & 巡礼と…

珈琲 , Jazz & 巡礼と…

#68 「日々穏やかならず」(オーディオネタ)

珈琲 , Jazz & 巡礼と… · 2026年10月12日 · 15:07

0:0015:07

Podliアプリで聴く 🎧

お気に入りの番組をフォローして、オフラインでも車内でもCarPlayやAndroid Autoで再生。いつでも続きから聴けます。無料でお試しできます。

※このコンテンツは jazzywada 執筆者したメルマガ記事をもとに NotebookLM で処理出力したものを編集しました。※AI音声特有の誤読等がたくさんありますがご容赦ください。

元ネタは https://jazzywada.blog.jp/archives/1085541835.html

ジャズとオーディオ機器をこよなく愛する筆者が、自身の音響システムの変遷と調整の記録を綴ったエッセイ風のブログ記事です。2002年に発行されたメールマガジンを軸に、JBLやアルテックといった名機へのこだわりや、真空管アンプのメンテナンスに没頭する様子がユーモアを交えて描かれています。また、伝説的な録音技師によるリマスター盤の魅力や、岩手県一関市の有名なジャズ喫茶**「ベイシー」**についても触れられており、当時のオーディオ文化が色濃く反映されています。全体を通して、理想の「音」を追い求める中で生じる日常の喧騒と、深い音楽への情熱が伝わる内容となっています。最終的に、趣味に没頭するあまり執筆時間が削られてしまうという、愛好家ならではの微笑ましい日常が描写されています。

----

穏やかな日常を壊す「至高の音」への誘惑:オーディオ沼の深淵から見えた4つの真実

高い空をバックに、庭先のピンクの大輪のコスモスが秋風にそよそよと揺れている。一見すれば、これ以上なく平穏で満ち足りた十月の午後だ。しかし、私の心の内は少しも穏やかではない。マイルス・デイヴィスの十一回目の命日に合わせるかのように、我が家に「ジムラン(JBL)」がやってきたからだ。

当初は、寝酒のジンを片手に、ブルーノート1500番台の「から莫迦に脳天気で陽気な」旋律を静かに愉しむつもりだった。だが、スピーカーを繋ぎ替えた瞬間、私は引き返せない迷宮へと足を踏み入れてしまった。オーディオという底なしの沼。そこには、平穏を代償にしてでも手に入れたい「真実」が転がっている。

オーディオの出口(スピーカー)が変われば、当然ながら入り口(ソース)の質が気になり出す。折しも、伝説のエンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダー(RVG)自らが手がけたリマスター盤が世を席巻していた。

私は、既に持っているはずの盤を、リマスター盤として再び買い求めた。「ぼけて同じものを二度買った」のではない。そこには狂気にも似た切実な探求心がある。通常盤とRVG盤にどれほどの差があるのか。それを確かめるためだけに、重いオーディオセットを抱えて知人宅を巡り、聴き比べを敢行した。その結果得られたのは、あまりにも歴然とした、残酷なまでの音の純度の差であった。

良いソースが入手できれば、より良い再生音を望むのは人情というものだ。

この一節は、合理性では説明のつかない、音に憑かれた者たちの偽らざる本音である。より生々しい音に触れたいという欲求は、もはや制御不能な生存本能に近い。

三十年来、私の傍らにはアルテックのスピーカーがいた。それを鳴らすのは、繊細で素直な音色が持ち味の2A3(三極管)シングルアンプ。この組み合わせは、いわば長年連れ添った夫婦のような安定感があった。

しかし、新入りの「ジムラン」は違った。アルテックより小ぶりで安価なモデルではあるが、その血筋は隠しようもない。繊細な2A3では、このスピーカーの真価を引き出しきれていない——まるでジムラン自身が「もっと鳴らせるはずだ」と意志を持って訴えかけてくるように思えてくるのだ。

スピーカーを運び入れた業者の放った「ジムランにはこっち(KT88)の方が良いかも……」という一言が、私の心の中で眠っていた虫を叩き起こした。2A3の静謐な世界も捨てがたいが、ジムランが求めるのは、もっと骨太な、KT88(ビーム管)による力強いドライブ感ではないのか。葛藤の末、私は十数年放置されていた古いアンプを引っ張り出す決意をした。

久々に日の目を見たKT88アンプは、案の定、満身創痍であった。ボリュームを回せばガリガリと凄まじいノイズが走り、三時間ほど通電を続けると、決まって左チャンネルの音がかすれ始める。一度電源を落として再投入すれば直るという、なんとも手のかかる、まるで気まぐれな生き物のような機械だ。

だが、真空管を抜き差しし、バイアス電圧を調整し、部品を交換しながら対話を重ねるうちに、その「音」は表情を変え始めた。MC275系を彷彿とさせる、力強くも艶やかな響き。ベースが「ブンッ」と空気を震わせ、シンバルが「クゥワッツーン」と空間を切り裂く。

完璧な現行機では決して味わえない、この不完全な機械との格闘。苦労して引き出した一音一音に、私はかつてない愛着を感じていた。不具合さえも、極上の音を鳴らすための「儀式」の一部に思えてくるから不思議なものだ。

私がこうして泥沼を彷徨うとき、常に指針とする伝説がある。岩手県一関市にあるジャズ喫茶「ベイシー」だ。マスター・菅原正二氏が綴った『ジャズ喫茶「ベイシー」の選択』には、オーディオの到達点が記されている。

カウント・ベイシー本人が二度も訪れ、伝説のドラマー、エルヴィン・ジョーンズが手にマメができるまでシンバルを叩き続けたというその店。そこで鳴らされる音を、ある者は「見える」と言い、ある者は「演奏家がそこに立っている」と形容する。

私がKT88の気まぐれな不調と戦い、ミリ単位の調整に執念を燃やすのは、まさにこの「見える音」という境地に少しでも近づきたいからだ。スピーカーの向こう側に、ミュージシャンの息遣いと、その場の熱気を召喚すること。不完全な機械と格闘する日々は、その奇跡を起こすための巡礼なのである。

二〇〇二年、小柴氏や田中氏のノーベル賞受賞という明るいニュースに日本中が沸いていた。そんな慶事を余所に、私は今夜も独り、寝酒のジンを手にスピーカーと向き合っている。彼らがノーベル賞なら、私はさしずめ「呑ーメルアルコール賞」といったところか。

BGMはルー・ドナルドソンの『BLUES WALK』、その中の一曲「AUTUMN NOCTURNE(秋の夜想曲)」。KT88アンプが奏でる深みのある音色が、秋の夜長に染み渡っていく。

オーディオの迷宮を彷徨い、機械の機嫌に一喜一憂する日々。それは確かに「穏やか」ではない。しかし、その「穏やかならぬ心」こそが、人生をより深く、鮮やかに彩ってくれるのだと確信している。

あなたの日常を「穏やかでなくさせる」ほどの情熱は、今どこに向いていますか? もし、まだそれが見つかっていないのなら、まずは一枚のジャズの盤を、心ゆくまで鳴らし切ることから始めてみてはいかがだろうか。

1. 衝撃の「RVGリマスター」:同じ録音を二枚買うという情熱の正当性2. スピーカーの「意志」:JBLが求めたKT88という相棒3. ヴィンテージアンプとの格闘:不完全だからこそ愛おしい「音」の正体4. 「見える音」の伝説:ジャズ喫茶『ベイシー』が示す究極の地平結び:ノーベル賞と「呑ーメルアルコール賞」の夜に

エピソード: 珈琲 , Jazz & 巡礼と…

Podli無料のPodliアプリを入手
↓ App