珈琲 , Jazz & 巡礼と… · 2026年10月13日 · 21:48
【データ解読】KiwiSDRの「謎のデコード不能」原因を追う:電波障害の誤解と太陽活動サイクル25がもたらした驚きの受信記録1. 導入 (Introduction)
WebSDRやデジタルモード(FT8)の運用中、画面上のデコードストリームが突如として途切れ、パケットの受信が完全に停止してしまう現象に直面したことはないでしょうか。このようなトラブルが発生した際、多くのラジオオペレーターは「近隣局による強大な混信(RF抑圧・ブロッキング)」や「宇宙天気の突発的悪化による電離層ブラックアウト」を真っ先に疑いがちです。しかし、デジタル信号処理(DSP)の観点からログを分析すると、不具合の真因は空中を飛来する電波ではなく、受信機システム内部のアーキテクチャ限界に潜んでいるケースが少なくありません。
本記事では、グリッドロケーターPM64ql13に設置されたJH4SBD局のKiwiSDR内部システムログ、および2026年10月に取得されたPSKReporterの受信データ(ADIF)を多角的に徹底解析します。受信障害の根本原因をDSPおよびシステム制御の観点から解明するとともに、太陽活動サイクル25(Solar Cycle 25)の最盛期がもたらした驚くべきHF/VHF帯の電波伝搬の実態を紐解いていきます。
2026年10月13日 00:44〜00:48 JST(10月12日 15:44〜15:48 UTC、特に15:48:31 UTC付近)において、KiwiSDRで運用中の複数バンド・複数FT8受信チャンネルにまたがり、同調を合わせたかのように一斉なデコード不能が発生しました。オペレーターの第一印象としては、自局の送信波回り込みや近隣強烈局の入力によるフロントエンドの「受信飽和(RFオーバーロード)」が強く疑われた局面です。
しかし、KiwiSDRの内部システムログを精査すると、過大入力による高周波のブロッキングとは異なる決定的なシステムエラーが刻まれていました。記録されていたのは、複数チャンネルで同期してカウントアップした「FT8 SEQ(シーケンス)の欠落(96、128、160への一斉増加)」と、それに続く「audio underrun(音声バッファ枯渇)」です。起動ログにはFSK: open failedやNAVTEX: open failedといった一部モジュールの初期化エラーも散見されますが、本障害の本質はマルチチャンネル処理時のリソース枯渇にあります。
強大な電波入力(RF飽和)が起きた場合、ADC(模範/デジタル変換器)でのクリッピングやノイズフロアの上昇により信号が歪むものの、DSPエンジンは歪んだ音声サンプル自体を生成し続けるため、データストリームが切断されることはありません。これに対しaudio underrunは、DSPマルチチャンネルのワークロード割り当てやCPUスレッドのスケジューリング優先度の競合、さらにはメモリ書き出し遅延により、リングバッファへのデータ供給が遮断される「リングバッファの枯渇(Ring Buffer Starvation)」現象そのものを意味します。
強大な電波の過大入力(受信飽和)は、音声サンプルの歪みやノイズフロアの上昇を引き起こすものの、データストリームそのものを途絶させずにサンプリングを継続します。これに対し、audio underrun(音声バッファ不足)はKiwiSDR内部のCPU処理・メモリ書き出し・スレッドスケジューリングの限界、またはネットワーク遅延に起因するリングバッファの枯渇現象であり、システム内部でデータ供給が断絶したことを厳密に示しています。
さらにセキュリティコンフィグの解析から、該当システムはユーザーパスワードが未設定の状態(no user password is set)で運用されていたことが判明しました。外部からのアクセス制限がないオープンアクセス状態において、複数のリモートセッションと同時FT8マルチスレッドデコード処理が重なった結果、CPUのコンテンション(スレッド競合)が発生し、一時的なスルーブット低下とバッファ枯渇を引き起こしたことが論理的に実証されます。
受信データが途絶した際、それが「物理的な電離層伝搬の減衰」によるものか、「デジタル受信機側の内部障害」によるものかを正しく切り分けることは、宇宙天気の分析においても非常に重要です。
宇宙天気の確定・予測データを確認すると、障害が発生した10月12日 15:48 UTC直前の00〜06 UTCには地磁気活動が高まり、Kp指数 5.33〜5.67(G1〜G2級の地磁気嵐に相当)が予測されていました。しかし、まさにaudio underrunが発生していた15:48 UTC時点の予測Kp指数は3.33と穏やかなレベルに落ち着いており、電離層が全開状態から突然ブラックアウトするような地磁気環境ではありませんでした。
実際、同15:48 UTCのタイミングにおいても、PSKReporterには30m帯などの受信スポットが継続して記録されていました。地磁気パラメータとリアルタイムのスポット実績の双方が、「エーテル上の電波途絶ではなく、受信機内部のデジタル処理能力の限界による局所的なデータ欠落であった」ことを科学的に立証しています。
2026年10月7日〜13日の期間中(重複を除いた計4,482スポット)に収集されたPSKReporter ADIFデータは、第25太陽活動周期(Solar Cycle 25)がもたらす素晴らしいコンディションを余すところなく捉えています。NOAA(アメリカ海洋大気局)の報告通り、太陽周期25では2001年以来のハイレベルな日黒点数が観測されており、高域HF帯からVHF帯に及ぶダイナミックな電波伝搬が確認されました。
各バンドの主な伝搬ハイライト:
バンド (Band)
スポット数 (Spots)
DXCC数 (DXCC Count)
主な伝搬傾向 (Key Propagation Trend)
160m / 80m
36 / 457
2 / 8
地域内・近距離が中心
30m
734
53
時間帯を超えた安定受信・長距離
20m
1,872
65
最大件数・最長19,400 kmを記録
17m / 15m
477 / 540
38 / 37
南米等を含む良好な遠距離伝搬
6m
81
3
レユニオン島(約9,528 km)の特異受信
統合ログでデコードされた全2,628局(85 DXCCエンティティ)について、各局の最高受信SNR(信号対雑音比)をもとに、実際の2WAY交信(QSO)が成立した可能性を評価しました。
一般にFT8において、受信SNR −15 dB以上を「QSOの有望候補」、−18 dB以上を「QSOの可能性あり」と定義すると、受信できた全局の9割以上が交信相手として十分に狙えるシグナル強度で到達していたことがわかります。
受信SNR閾値 (SNR Threshold)
到達局数 / DXCC数 (Stations / Reachable DXCC)
SNR ≥ −5 dB(非常に強い受信)
191局 / 12 DXCC
SNR ≥ −10 dB
1,144局 / 51 DXCC
SNR ≥ −15 dB(QSOの有望候補)
2,361局 / 80 DXCC
SNR ≥ −18 dB(QSOの可能性あり)
2,589局 / 84 DXCC
全デコード実績
2,628局 / 85 DXCC
具体例を挙げると、6m帯ではローカル・近接エリアのJR4PWV(+22 dB)をはじめ、JI4JKO(+16 dB)やJA4BXL(+13 dB)といった強力なシグナルが記録されています。また海外DX局に目を向けると、中国のBI2QFV(+7 dB)やBD4JU(+5 dB)などが圧倒的な強さで届いていました。