名古屋ではたらく社長のITニュースポッドキャスト · 2026年10月16日 · 7:00
タイトル
ニコン、半導体後工程向けの新型デジタル露光装置「DSP-110」を発表──処理能力40%向上と将来アップグレード対応でAI半導体の量産を加速
このエピソードで登場するキーワードを説明します。
アドバンストパッケージング(先端パッケージング): 複数の異なる半導体チップ(チップレット)を一つのパッケージ内に高密度に配置・接続し、あたかも一つの巨大なチップのように機能させる半導体後工程の技術。生成AI向けのGPUやHBM(広帯域メモリ)の性能向上に不可欠となっている。
デジタル露光装置(マスクレス露光): 従来の露光装置で使われる原版(フォトマスク)を使用せず、デジタル化された回路設計データに基づいて光を直接基板に照射し、回路パターンを描画する装置。マスクの製造コストや納期が不要で、基板の反りや歪みにも柔軟に対応できる。
RDL(Redistribution Layer / 再配線層): パッケージ内で複数の半導体チップ同士を電気的に接続するための微細な配線層。チップの高密度化に伴い、より細く正確な配線(高解像度)と高い生産性が求められている。
L/S(Line and Space / ラインアンドスペース): 半導体の回路における配線の幅(Line)と、隣り合う配線同士の間隔(Space)を示す指標。解像度1.5マイクロメートル(L/S)とは、1000分の1.5ミリメートルの幅と間隔で配線を形成できることを意味する。
フォーカスマージン(焦点深度の許容範囲): 基板の表面の高さが微妙にずれて焦点が変動した場合でも、正確な回路寸法を保って露光できる許容範囲のこと。大型で反りやすいパッケージ基板の歩留まりを左右する重要な要素。
それでは解説に入ります。
日本の光学機器・半導体製造装置大手であるニコンは、2026年10月13日、半導体の後工程にあたるアドバンストパッケージング向けの新型デジタル露光装置「DSP-110」を開発し、2027年4月に発売すると発表しました。ニコンは2025年7月に解像度1.0マイクロメートルを実現した第1弾の「DSP-100」を発表し、2026年6月にはより生産性を重視したモデルの開発を予告していましたが、今回その正式な量産仕様と発売時期が明かされた形です。
現在、生成AIの急速な普及に伴ってデータセンター向けの高性能GPUやHBMの需要が爆発的に拡大しており、複数のチップを一つのパッケージに高密度に実装するアドバンストパッケージング技術の重要性がかつてないほど高まっています。その中核となる再配線層(RDL)の形成工程では、回路の微細化だけでなく、大型の角型基板(パネル)を使って一度に大量のパッケージを製造する「パネルレベルパッケージング(PLP)」への移行が進んでいます。しかし、大型の基板はシリコンウェハに比べて反りや歪みが生じやすく、従来のフォトマスクを使う露光方式では位置合わせが難しいうえ、多品種生産においてマスクの製造コストが重荷になるという課題がありました。DSPシリーズは、フォトマスクを使わずに設計データから直接回路を描画するデジタル露光方式を採用することで、こうした課題を根本から解決する製品です。
今回発表された「DSP-110」の最大の特長は、解像度を1.5マイクロメートル(L/S)に最適化して光学系を再設計したことで、先行モデルのDSP-100と比較してスループット(処理能力)を約40パーセント向上させた点にあります。具体的には、プラスマイナス0.3マイクロメートル以下という極めて高い重ね合わせ精度を維持しながら、510ミリ×515ミリサイズの角型基板において毎時72パネルという高い生産性を実現しています。対応する基板サイズも幅広く、300ミリウェハから最大730ミリ×920ミリの大型角型基板までカバーしており、製造ラインの生産効率向上とトータルコストの低減に直結する仕様となっています。
さらに、量産現場の歩留まりを改善する工夫として、光学系の再設計によって「フォーカスマージン」がDSP-100よりも拡大されました。大型のパッケージ基板は表面の凹凸や反りによる高さのばらつきが避けられませんが、焦点がわずかにずれても正確な回路寸法を維持できる許容範囲が広がったことで、多様な基板条件に対して安定したパターニングが可能になります。
そしてもう一つ、半導体メーカーの設備投資戦略において極めて魅力的なのが、将来の微細化に対応する「アップグレード性」を備えている点です。DSP-110は、導入後に装置内部の光学系を交換することで、上位モデルであるDSP-100と同等の「解像度1.0マイクロメートル(L/S)」の装置へと改造できる設計になっています。つまり、半導体メーカーはまず現在主流となっている1.5マイクロメートルのプロセスにおいて、毎時72枚という高い処理能力を活かして早期に投資を回収し、将来より微細な再配線層が必要になった段階では、高価な装置全体を買い替えることなく光学系の交換だけで次世代プロセスへ移行できるわけです。
微細化の極限を競う半導体前工程の露光装置ではオランダのASMLが圧倒的なシェアを握っていますが、AI半導体の性能を左右する新たな主戦場となった「後工程・先端パッケージング」の領域では、ニコンがこれまでカメラやフラットパネルディスプレイ(FPD)露光装置で培ってきた光学技術と大型基板の搬送技術が大きな強みとして活きています。最先端の微細化を担う「DSP-100」と、高い量産性と将来の拡張性を兼ね備えた「DSP-110」の2段構えが整ったことで、AI半導体サプライチェーンにおけるニコンの存在感は今後さらに高まっていきそうです。
今回のエピソードは以上で終了です。また次回お会いしましょう。
エピソード: 名古屋ではたらく社長のITニュースポッドキャスト